外壁塗装を行う際は、外壁の下地材に適正な下地補修や下塗り、中塗り、上塗りの選定が必要です。そのため、まずは外壁材について知っておくことが大切です。
日本の建物で用いられている外壁材は、主に以下のような種類があります。
・セメント、砂、水を混ぜ合わせて作られる「モルタル外壁」
・住宅の約60%以上を占めている「サイディング外壁」
・鉄筋とコンクリートを組み合わせて強度を増している「RC(鉄筋コンクリート)外壁」
塗料の選定のキーポイントの一つにもなりますので、ご参考になれればと思います。
目 次
モルタル外壁とは
モルタルとは、セメントと砂と水を一定の割合で練ったものです。また、セメントとモルタルは違い、モルタルの材料の一つがセメントになります。
そして、モルタル外壁のことは「湿式」と呼びます。湿式とは、現場で水を加えながら施工するものです。
2000年以前は木造場合、柱、梁などに直接アスファルトフェルトを貼り、ラス網の上にモルタルをしごき塗りしていました。
最近では、合板などの上に透湿・防水シートを貼り、通気胴縁を用いた軽量モルタル仕上げが主流になってきてます。
この通気胴縁を用いた軽量モルタル仕上げは、構造的にメリットが多く、断熱効果や雨漏りリスクを軽減することが可能です。
しかし、少しだけデメリットもあります。熱が外壁の外側に溜まるため、外壁仕上げ材の塗料などが早く劣化してしまうことがあります。
モルタル外壁(湿式)を施工する際の注意点
新築時の注意点は、天候にかなり左右されることや、現場で調合して手作業で塗りつけるので職人技量に差でることが挙げられます。(現在、モルタル自体は既調合のプレミックスモルタルが主流)
また、水(雨)や熱(太陽光)などによって収縮が起きやすいので、一定間隔で目地を設けて、収縮によるクラックを逃がすことも重要です。この収縮によるクラックを逃がすために作る目地を「誘発目地」と言います。
誘発目地は改修工事、塗り替えなどの時にクラック補修の跡が目立ちにくく、補修費用が安くなることがあるため、新築時に施工するのが望ましいです。
改修工事、塗り替えの注意点は、クラックが起きている可能性が高いので、クラック補修を前提として考えなければいけないということです。
このクラックには、構造クラックと一般クラックとあるので、その補修方法も肝心です。
そして、新築時の注意点で申し上げた通り、誘発目地が無い状態でクラックが起きやすい場合は、新たに誘発目地を設けることで、クラックを予防できることがあります。
モルタル外壁を塗装する際の注意点
新築時は様々な塗料や塗材が塗装できるので、リシン、弾性リシン、吹き付けタイル、弾性タイル、スタッコ、スキン、石調など自由自在に意匠性、モルタル外壁の風合いを楽しむことができます。
ただし、このように自由自在できるため、改修工事や塗り替えの時には新築時の塗料をしっかりと見極めることが大切です。
■安易に弾性塗料や高弾性塗料を使用するのは危険
先ほど申した通り、クラックが前提となるためクラックが0.2mm以下は刷り込み、0.3以上はUカットを行います。
シーリングやモルタル自体が浮いていたり、かなりの面積でクラックが起きていると、モルタルからやり直しをしないといけない場合があります。
そして、この時の塗料の選定において、安易に弾性塗料や高弾性塗料を使用するのは危険です。
塗料の硬さは、硬質→微弾性→弾性→高弾性と柔らかくなっていきます。しかし、柔らかいもの上に堅いものを塗ると表面は割れてしまいます。
そのため、一見「クラックが多いから、柔らかい弾性や高弾性の方が‥」と思いがちですが、高弾性の塗装してもクラックは発生します。
さらに、弾性力が高いと、透湿性と呼ばれる湿気の逃げ道を阻害することが多いので、余計にモルタルの状態を悪化させてしまうことがあります。
特に高弾性の塗料を塗装すると、次の改修工事や塗り替えのタイミングで弾性力が同等以上じゃないと塗装ができないので、高弾性塗料しか塗装できないといった状況になってしまいます。
■厚みのある塗料(塗材)塗られている場合
厚みのある塗料が塗られている時の改修工事や塗り替えにも注意が必要です。
例えば、スタッコ、石調などの厚みのある塗料の場合、モルタル自体は構造体と強固に密着しておらず、年数が経つとさらに密着力が弱くなります。
そのため、改修工事や塗り替えなどで、新たに厚みのある塗料を塗装すると構造体(躯体)から引っ張られ、剥がれ落ちる危険があります。(ジョリパットなどで厚みのつくものも含む)
塗装する際のポイント
モルタル外壁を塗装する際は、以下3つのポイントを踏まえて考えることが重要です。
・新築時は自由自在。誘発目地は入れる。
・ただし、クラックが前提で考える。
・塗装されている塗料(塗材)により塗装できる塗料(塗材)が制限される。
新築時は自由自在に施工できますが、しっかりと誘発目地を入れてることが大切です。また、高弾性塗料や厚みのある塗料(塗材)はなるべくは使わずに、改修工事や塗り替え時のことを考えて材料を選ぶようにしましょう。
これがなかなか、工務店さんや建築屋さん、ビルダーさん、設計者さんがやっているところが少ないのが現象です。(ほぼない・・)
そして、モルタル外壁はクラックの発生が多いので、改修工事や塗り替え時はクラックの幅によりフィラー刷り込み、Uカットシーリング、左官しごき(メッシュ入り)、モルタルやり替えなどしっかりとした下地補修を行います。
誘発目地が無い場合は、クラック予防の為に誘発目地を設けると安心です。
塗料の選び方
塗料選びは、今塗装されている塗料の種類によって変わってきます。
以下は、既存の塗料別のオススメ塗料です。
■硬質系塗料(塗材)
リシン、吹きつけタイルの場合はシーラー、微弾性フィラー(なみがた)、トップコート2回塗り。複層仕上げ。
【例】
日本ペイント:水性カチオンシーラー、パーフェクトフィラー、パーフェクトトップ
ダイフレックス:ワイドシーラー、セラ・トーシツプラス、セラコートアクア
(透湿性が一番良いハイグレード仕様)
■弾性系塗料(塗材)
単層弾性、弾性リシン、弾性タイル、弾性スタッコの場合は、現在の柔らかさを確認した後(10年以上経過して堅くなっている方がよい)シーラー、微弾性フィラー(なみがた、平滑塗り)、トップコート2回塗り。複層仕上げ。(単層弾性、弾性スタッコは要相談)
【例】
日本ペイント:水性カチオンシーラー、パーフェクトフィラー、パーフェクトトップ
ダイフレックス:ワイドシーラー、セラ・トーシツプラス、セラコートアクア
(透湿性が一番良いハイグレード仕様)
■多彩模様系塗料(塗材)
スキン、石調の場合は、水性系シーラーを複数回、場合によっては微弾性フィラー(平滑塗り)、薄付け多彩模様中塗り、薄付け多彩模様トップコート。複層仕上げ。
※水性系シーラー指定の理由は、スキンと石調の場合、塗料メーカーによって耐溶剤性が悪いものがある為。
【例】
日本ペイント:水性カチオンシーラー、パーフェクトフィラー、水性ペリアート中塗り、水性ペリアート
ダイフレックス:ワイドシーラー、アクレスフィラー、アーバントーン中塗り、アーバントーン上塗り
(多彩色塗料の中で一番耐候性良いハイグレード仕様)
■高意匠仕上げ塗料(塗材)
ジョリパット、ベルアートで厚みのある(こて塗りなど)が塗装されている場合は、シーラー、高意匠専用仕上げ材2回塗り。
できるだけ、同じような素材の塗料(塗材)を勧めます。(のちに塗膜の浮きや剥がれなどが起こりやすい為)
【例】
アイカ工業:セーフシーラー、ジョリパットフレッシュ2回塗り
サイディング外壁とは
サイディングとは、おおまかに言うと板張り、羽目板のことです。現在、住宅の約60%以上を占めている外壁材になります。
また、サイディング全般のことは「乾式」と言います。
あらかじめ工場などで製造されたものを、現場でカットして貼り合わせいくので、湿式のモルタルと比べて工期の短縮や職人の技量の差は少なく、安定した品質で施工できます。
サイディングの種類は主に窯業サイディング、金属サイディング、樹脂サイディング、木製サイディングに分類されます。
窯業サイディング | セメント質と繊維質を原料として、窯を使用して高熱処理をしたサイディング |
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金属サイディング | アルミやガルバニウム鋼板の内側に、断熱材をあわせたサイディング |
樹脂サイディング | 塩ビ樹脂で形成されたサイディング |
木製サイディング | 杉板やパイン材などの木製のサイディング |
■窯業サイディング
窯業サイディングは、バリエーションの豊富さなどから一番使われている種類です。
窯業サイディングの工法は、外壁の合板などに透湿・防水シートを貼り、直接その上に窯業サイディングを貼る直貼工法と、通気胴縁を用いた通気工法の2通りあります。
2000年以前までは直貼工法が多かったですが、透湿・防水シートの不具合や施工品質の悪さもあり、雨漏りなどが多く発生していました。2000年以降は、通気工法が主流になり、施工も安定してきたと言えます。
■金属サイディング
金属サイディングは窯業サイディングに比べて軽く、断熱性もあり、施工もしやすいのですが、意匠的に窯業サイディングより劣る為に新築時の採用は少なくなってきています。
金属なので、海に近いところでは、塩害によるサビの発生も起こります。そのため、塩害地域では定期的なメンテナンスが必要です。
■樹脂サイディング
樹脂サイディングは、あまり日本では取り扱いされていない種類です。
高価ですが、断熱性や耐候性に優れているため、最近ではアルミサッシから断熱性の高さを生かした樹脂サッシに変わりつつあります。
■木製サイディング
木製サイディングは、実は昔から日本に定着しているもので、大正時代の建物にもよく使われていました。
時代の移り変わりと共に少なくなってきておりますが、近年では木製サイディングの木の良さが再認識され、少しずつ増加傾向にあります。
また、アルミサッシより断熱性に優れるため、木製サッシも増えてきております。ただし、メンテナンスサイクルは早いので、3年~5年でメンテナンスしないといけません。
窯業サイディング(乾式)を施工する際の注意点
窯業サイディングは一般的に、長さ3030mm、働き幅455mm、厚み14mmまたは15mm~が現在の主流で、横貼りと縦貼りがあります。
窯業サイディングと窯業サイディングとの間にハットジョイナーと呼ばれるものがあり、その上にシーリングを打設して、防水性を高めるのが一般的な施工の方法です。
また、サイディングを留める方法は、釘打ちや金具留めになります。
年数が経ってくると、シーリングが劣化して、サイディングが反り始めるので、定期的なメンテナンスが必要になってきます。
あまり放置しすぎると、窯業サイディング自体を張り替えないといけない場合があります。
メンテナンスの時期としては、新築時から10年~15年が一つの目安になります。
サイディング外壁を塗装する際の注意点
■サイディングの種類や工法などの見極め
現在、新築のほとんどが窯業サイディングです。しかし、金属サイディング、樹脂サイディング、木製サイディングそれぞれメンテナンス方法が異なるため、きちんとした見極めが肝心です。
さらに、窯業サイディングの場合は、直貼工法と通気工法の違いを見極めて、塗装の必要性や塗料の種類を考えていかなければなりません。
また、サイディング外壁で一番難しいのは、窯業サイディングの工場ラインでの仕上げ塗料の見極めです。
シリコン系樹脂なのか、フッ素系樹脂なのか、無機系樹脂なのか、はたまた光触媒系樹脂なのかで、塗装する際の下地処理、塗料の下塗り・上塗りが大きく変わってしまうからです。
シーリングの相性もしっかりと確認しないといけません。これはシーリングメーカーと塗料メーカーが別だと、不具合が起きたときに責任の所在がはっきりしないからです。
※最近は、塗料メーカーサイドで適合シーリング材を提示しています。
■サイディングの種類によって塗料を選択する
窯業サイディングの高意匠性サイディングボードの場合、10年未満を目安にクリアー塗装で新築時の風合いを残しつつ、メンテナンスできます。
金属サイディングは防錆処理をする錆止めを塗装、樹脂サイディングは可塑剤対応の専用プライマーを塗装、木製サイディングには木部専用塗料を塗装します。
最も塗装してはいけないのが、一般的な弾性塗料です。微弾性フィラーも後で膨れの原因になりますので、危険です。高弾性塗料は論外です。
■塗料とシーリングの関係性
シーリングを先打ちするか、後打ちするかは、塗料の硬さによって決まります。
シリコン樹脂系なら先打ち、フッ素樹脂系なら先打ちか後打ちか選択、無機系樹脂なら後打ちで施工していきます。クリアー塗装の場合は、後打ちを推奨しております。
最適な工法を選ぶことで、シーリングの上に塗料を塗装した際に、シーリングの動きについていけずに塗料が割れるのを防ぐことできます。
シーリング打ち替えの際は、2面接着を確保することも大事なポイントです。2面接着を確保するためには、バックアップ材やボンドブレーカーを使用することが大切です。また、シーリング自体もきれいに撤去しないと、後に断裂することがあります。
これらも当たり前のことですが、意外にやられていないところが多いのが実情です。
塗装する際のポイント
サイディング外壁を塗装する際は、以下4つのポイントを踏まえて考えることが重要です。
・サイディング外壁の種類を見極める。
・窯業サイディングに工場で何塗装されているか見極める。
・直貼工法か通気工法か見極める。
・塗料とシーリングの相性を見極める。
サイディング外壁の種類が窯業サイディングの時は、何を塗装されているかを見極めます。無機系樹脂の場合は要注意です。
そして、直貼工法と通気工法それぞれの工法に適した塗料を選定します。状態が良い窯業サイディングはクリアー塗装も可能です。弾性系の塗料や特に高弾性塗料はNGです。
また、塗料メーカー、シーリングメーカーで相性テストをしてくれくる所もあるので、シーリングと塗料の密着をテストします。
弱溶剤塗料だとシーラーが不要なケースもあり、シーラーを塗らない方が密着と透湿性が良い場合もあります。
塗料の選び方
塗料選びは、サイディングの種類や今塗装されている塗料によって変わってきます。
以下は、既存のサイディングの種類・塗料別のオススメ塗料です。
■窯業サイディング(一般)
水性仕様:シーラー、トップコート2回塗り
弱溶剤仕様:トップコート2回塗り
【例】
日本ペイント:水性カチオンシーラー、パーフェクトトップ、ファインシリコンフレッシュ(NGK、日本窯業外装材協会推奨)
ダイフレックス:ワイドシーラー、セラコートアクア
(透湿性が一番良いハイグレード仕様)
■窯業サイディング(高意匠)
弱用溶剤クリアー2回塗り
【例】
日本ペイント:UVプロテクトクリアー
ダイフレックス:スーパーセランマイルドクリアー
(変成無機塗料でハイグレード仕様)
■窯業サイディング(多彩模様仕上げ)
シーラー、中塗り、上塗り
【例】
ダイフレックス:ワイドシーラー、カレイド中塗り、カレイド上吹き
(耐候性が一番良いハイグレード仕様)
■金属サイディング
エポキシ錆止め、トップコート2回塗り
【例】
日本ペイント:ハイポン20デクロ、ファインシリコンフレッシュ
ダイフレックス:ヒスイエポサビ、ナチュラルシリコンプレミアム
■樹脂サイディング
専用プライマー、トップコート2回塗り
【例】
日本ペイント:塩ビゾルプライマー(テスト施工あり)、ファインシリコンフレッシュ
ダイフレックス:バリアプライマー(テスト施工あり)、ナチュラルシリコンプレミアム
■木製サイディング
木部専用材2~3回塗り
【例】
日本オスモ:ウッドステインプロテクター2~3回塗り
大阪ガスケミカル:キシラデコール2~3回塗り
※シーリング材は基本的に、ノンブリードタイプのオート化学さんの超耐シーラーTF2000を推奨しています。
RC(鉄筋コンクリート)外壁とは
RCとは鉄筋コンクリートの略で、圧縮強度は強いが引っ張り強度は弱いコンクリートと、引っ張り強度は強いが圧縮強度は弱い鉄筋を組み合わせ、互いの弱い部分を補っている外壁材です。
非常に強固な物性を出すことができるため、橋桁やトンネル、高速道路の構造物などに多く使われています。
コンクリートの主成分は、セメント、砂、砂利、水を一定量混ぜ合わせたもので、RCで使われる鉄筋は主に異形鉄筋と呼ばれるものが使用されます。
まとめ
外壁材には様々な種類があり、素材に適した下地補修や塗料選びをすることが重要です。
モルタル外壁の場合は、ひび割れしにくい弾性塗料が適しているとよく言われていますが、弾性塗料を使ってもひび割れは発生する可能性はあります。厚みのある塗料を重ねてしまうと、剥がれ落ちてくる恐れもあるので、既存の塗膜の種類をしっかりと見極める必要があります。
また、サイディング外壁には、窯業サイディング・金属サイディング・樹脂サイディング・木製サイディングの4種類あり、それぞれメンテナンス方法が異なるため、まずはどの種類なのかを明確にすることが大切です。
ご自身で家の外壁に、どのような塗料が適しているのかを判断するのは難しいかと思いますので、まずは信頼できる専門の業者に状況を見てもらうようにしましょう。